奇麗な、悪

嘘があってもいつも真実

原作:中村文則(「火」(河出文庫『銃』収録) )

主演:瀧内公美

脚本・監督:奥山和由

製作:チームオクヤマ/よしもと総合ファンド/
シー・アンド・アール/RON/ナカチカ 
プロデューサー:豊里泰宏 音楽:加藤万里奈 
撮影監督:戸田義久 照明:中村晋平 
録音:伊藤裕規 
美術:部谷京子 編集:陳詩婷 音響効果:大塚智子 
衣裳デザイン:ミハイルギニスアオヤマ ヘアメイク:董氷 
劇中絵画「真実」後藤又兵衛 
制作協力:シンクイ 
制作プロダクション:チームオクヤマ 配給:NAKACHIKA PICTURES 
ⓒ2024 チームオクヤマ

2025221日[金]より、
テアトル新宿ほか全国順次公開
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インロダクション Introduction

形容し難い危ない
麻薬的魅力を放つ「映画」だ。

芥川賞作家・中村文則による原作、今や注目度No.1の俳優・瀧内公美の卓越した演技力、そのふたりの才能の参加を得て映画界に半世紀近く携わる奥山和由が常識を覆す演出方法で仕上げた。
この映画、観客は観終わってもしばらくの間、美しい映像や劇中のサブリミナル音に支配される。そして耳に残る印象的なピエロの口笛。きっと多くの人は映画から解放された後、いつの間にかそのメロディーを口ずさんでしまうだろう。女の語る半生は人の道を踏み外した悲惨な話でありながら、どこか心地良さすら感じてしまうのだ。そして、気がつくと自分に何が起こっても大したことではない、いずれ少しは幸せになれるはずという気がしてしまう。それは理屈抜きの映画的マジックだろうか。

スタッフは『RAMPO』以来約30年ぶりに監督を務めた奥山和由のもとに、「鎌倉殿の13人」などの撮影監督・戸田義久、美術の名匠・部谷京子、『ミッドナイトスワン』などの録音・伊藤裕規、『PERFECT DAYS』などの音響効果・大塚智子 等、日本映画を代表するスタッフが集結。それに加え、衣装のミハイル ギニス アオヤマ(ギリシャ)をはじめ、編集・陳詩婷(台湾)、ヘアメイク・董氷(中国)と国際色豊かなチームとなっている。

また、精神科医と主人公の関係の象徴の如き大きな絵画が冒頭から最後まで印象的に映り込んでいる。描く画家が絵に収まってしまい、それを逆に見つめる裸婦という逆転の構図。これは「真実」という標題の後藤又兵衛の原画である。後藤は日本では不遇の画家だったが、それに比して海外では圧倒的に高い評価を得ており、彼の絵の熱心なコレクターとしてハリー・ベラフォンテ、エルヴィス・プレスリー、フランク・シナトラなど歴史に名を残す錚々たるアーティスト達が名前を連ねている。

そして、全編を彩るピエロの口笛のメロディーは芸術文化功労賞受賞者であり国際口笛大会(IWC)での優勝歴を持つ加藤万里奈が担当した。

一流のスタッフ、アーティストによって生まれた、かつてない実験的な自主映画、そういう不思議な映画だ。 百聞は一見にしかず、としか表現のしようがない、本当に困った映画だ。

ーリー Story

ひとりの女が街の人混みのなかを歩く、まるで糸の切れた風船のように。
生きることすら危うさを感じるその女は一件の館にたどり着く。
女は思い出す、以前に何回か訪ね診てもらった精神科医院だ。人の気配はないがドアは開く。
静けさが待ち受けている。医師は今でもどこかにいるのか?
女は部屋の空洞に吸い込まれるように中に入っていく。そして以前と同じ様に患者が座る
リクライニングチェアに身を横たえる。
目の前にあるピエロの人形に見つめられているようだ。
「火の、、、火の話から始めることにします」
幼少の頃、カーテンに放った火て起こった事件から話し始める。
そして、、、「今日は、全部話す」と。

キャス&スタッフ Cast & staff

  • 原作

    中村Fuminori Nakamura

    「火」
    (河出文庫『銃』収録)

    1977年生まれ、愛知県出身。
    2002年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。04年『遮光』で野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』で芥川賞、10年『掏摸(ルビ:スリ)』で大江健三郎賞を受賞。12年『掏摸(ルビ:スリ)』の英訳が米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の年間ベスト10小説に選ばれる。14年David L. Goodis賞(米)、16年『私の消滅』でドゥマゴ文学賞、20年中日文化賞、24年『列』で第77回 野間文芸賞を受賞。他の著書に『何もかも憂鬱な夜に』『去年の冬、きみ と別れ』『教団X』『R帝国』など。 エッセイ集に『自由思考』、対談集に『自由対談』がある。

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    「前」を向く

    この『奇麗な、悪』の原作の「火」は、様々な人から、演じてみたい、という声を聞いていた。

    『火 Hee』として桃井かおりさん監督・脚本・主演で映画化され、「業火」として三木美智代さんによって舞台化されている。「火 Hee」でプロデューサーを務めた奥山和由さんから、「火」をもう一度映画にしたいと言われた時は、しかし驚いた。映画化としては、二回目になるから。

    出来上がったものを観て、さらに驚くことになる。原作の通りではあるけど、これは一人の女性が、話しているだけの映画。なのに、これほどまでに、引き込まれる。

    主演の、というか、お一人しか出演していないのだが、瀧内さんは実に見事だった。多方面から大きな注目を浴びている俳優とは知っていたが、従来の映画には見られない、ここでしか味わえない独特の言語空間をつくり出していた。一人の女性が、自分の内面の奥の奥を、誰もいない場所で、独白する。通常の言葉だけが、連なるはずがない。他者に言う自然な言葉もあれば、反対に内面の奥を探るような、社会化されていない観念的な言葉もある。そして構える言葉、吐き出す言葉、攻撃、防御、揺れ――、あらゆる種類の言葉が解き放たれ、映画空間に言葉の「場」がつくり出されていた。その演技力、存在感。すさまじかった。

    映画は、小説よりもどこか「前」を向いている印象がある。瀧内さんによる、奥に芯の見える主人公像もそうだった。この映画はこのように完成したことで、「火」の主人公を救ったのかもしれない。

    あらゆる文化が平均化していく中で、このような作品が日本映画にあることが、嬉しい。

  • 主演

    内公美Kumi Takiuchi

    1989年10月21日生まれ、富山県出身。
    2012年映画デビュー。以降、多くの映画・TVドラマに出演し、2014年、内田英治監督『グレイトフルデッド』で映画初主演を務める。その後も『日本で一番悪い奴ら』(15/白石和彌監督)などの話題作に出演。『彼女の人生は間違いじゃない』(17/廣木隆一監督)で主演。2019年公開の主演作『火口のふたり』(荒井晴彦監督)で、第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞・第93回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞、2021年公開の主演作『由宇子の天秤』(春本雄二郎監督)で、第31回日本映画批評家大賞主演女優賞・第31回日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞など、国内外で多くの賞を受賞。近年の主な出演作に、TVドラマ「凪のお暇」(19)、KTV「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)、NHK大河ドラマ「光る君へ」(24)など。公開待機作に映画『敵』(吉田大八監督:2025年1月17日公開)、映画『Ravens』(マーク・ギル監督:2025年3月公開予定)がある。

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    2022年6月28日、とっても不思議な映画の企画が届きました。
    ひとりの女性が延々と喋り続けている。果たしてこれは映画として成立するのか?
    突飛な企画過ぎるけど、ひとり芝居の経験がない私は挑戦してみたいと思いました。
    そしてこの女性はこれだけ喋り続けているけれど、このひとが“言わないこと”、“言えないこと”ってなんだろう?を探し続けることとなりました。
    奥山監督をはじめ、スタッフの皆さんと大勝負に出たこの作品をどう受け取ってくださるのか楽しみにしています。

  • 脚本・監督

    和由Kazuyoshi Okuyama

    1954年12月4日生まれ、東京都出身。
    学生時代より助監督として映画制作に従事。1982年よりプロデューサーとして活躍。代表作『ソナチネ』『GONIN』『226』『ハチ公物語』『その男、凶暴につき』『いつかギラギラする日』『地雷を踏んだらサヨウナラ』など。また『うなぎ』でカンヌ国際映画祭パルムドール賞、『ハチ公物語』『外科室』で2度の藤本賞、エランドール賞など受賞多数。監督、脚本家としても『RAMPO』で日本アカデミー賞優秀監督賞、脚本賞、他海外の映画賞を多数受賞。そして、映画ファンドなどの立案による出資形態の改革を推進し、北野武、竹中直人、秋元康、坂東玉三郎から行定勲、藤井道人まで新人監督の発掘育成に尽力したことでも知られる。スクリーンインターナショナル誌100周年記念号では日本人唯一人、世界の映画人100人に選ばれた。

    【主な作品】
    1987年『ハチ公物語』(神山征二郎監督)1989年『226』(五社英雄監督)1989年『その男、凶暴につき』(北野武監督)1991年『無能の人』(竹中直人監督)1992年『いつかギラギラする日』(深作欣二監督)1993年『ソナチネ』(北野武監督)1995年『GONIN』(石井隆監督)1997年『うなぎ』(今村昌平監督)1999年『地雷を踏んだらサヨウナラ』(五十嵐匠監督)2008年『ラストゲーム最後の早慶戦』(神山征二郎監督)2015年『この国の空』(荒井晴彦監督)2018年『銃』(武正晴監督)2019年『エリカ38』(日比遊一監督)2020年『海辺の映画館』(大林宣彦監督)など

    監督としては、1994年のデビュー作『RAMPO』。『奇麗な、悪』はそれ以来の監督作品。(ドキュメンタリー映画の監督は、『クラッシュ』(2003)、『熱狂宣言』(2018)。)

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    自己解放、という言葉が頭の中に住み始めていた。

    好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、許せないことは許せない。それをそのままスクリーンの枠に溢れさせてみたい、そんな衝動を映画は受け入れてくれるのか。そういえば30年以上前に「RAMPO」を監督した時も同じ想いが去来していた。
    無意識に好きなもの、、中村文則の小説、口笛を吹くピエロの人形、後藤又兵衛の絵画、横浜の古い洋館、夕焼けの外人墓地などなど、それらに触れながら…たどり着いた中心の心臓部分に位置するイメージ。
    生命力の象徴のような女性の姿がくっきりと浮かんでいた。中村文則による精神科医に語る女性のひとり語り。原文そのままをセリフとして声にすると約60分。膨大な文字を生身の瀧内公美自身の言葉にして全身から吐き出す。セリフとセリフの合間の表情、それをくまなく捉えるのに一度もカットせず60分以上の超長時間長回しで最初から最後まで撮影する。

    それを何回も繰り返す、そして編集する。
    そうすることによって、息遣いも生々しいリアルな存在感を作り上げていく。
    振り返ると半世紀近く映画を生業としてきて、未だに映画とは何かわからない。少なくとも「人間」が「人間」を表現するもの。未だにその程度のことしか分からない。
    自分という人間を解放してひとりの女性を見つめ切ることで究極の実験映画を作ってみたい。映画という自由表現が与えてくれる可能性を覗き込みたい。それがこの企画だ。
    20世紀を代表する映画監督、イングマール・ベルイマンは晩年「A SPIRITUAL MATTER」という女優の一人語りの脚本を仕上げ、映画化を熱望した。にも関わらず、あまりにも突飛なコンセプト故に出資者が見つからず実現出来なかった。
    自分の才能はかの巨匠の足元にも遥かに及ばないが、最後にそのような映画を作りたいと思ったベルイマンの想いは相似形のものとして痛いほど理解できる。
    幸運なことに自分は中村文則の魅惑的言葉と瀧内公美の演技力に恵まれ、実現出来た。さらに撮影監督の戸田義久さん、口笛奏者の加藤万里奈さん始め才能豊かなスタッフ方々が集まってくれた。
    本当に幸せな映画だと思う。
    そして我が映画人生の最後にこのような我儘を許してくれた全ての方々に心底感謝している。
    …にしても、ベルイマンの夢想した映画はどの様な映像空間だったのか、観たかった。「奇麗な、悪」を完成させて、つくづくそう思う。

  • 音楽

    加藤万Marina Kato

    1998年生まれ、茨城県出身。
    2013年、中学在学中にアメリカで開催された世界口笛大会のティーン部門女子部で優勝し、翌14年には芸術文化功労賞を受賞。口笛だけではなく、バイオリン、乗馬など多岐に亘り活動を展開している。また2018年からは女優としての活動も開始、さらには水戸市の「魅力宣伝部長」にも就任。そして2019年、日本人で初めてアメリカニューヨーク市のカーネギーホールに於いて口笛演奏を披露し高い評価を得た。

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    混沌と平穏、暴力と愛情、そして嘘と本当。
    世界は曖昧なことが多い。
    おぼろげな旋律に、口笛でぴゅ~っと。

「真実」50号
劇中絵画「真実」

又兵衛Marina Kato

1925年 愛知県一宮市に生まれる
1957年 ガンブスギャラリー サンフランシスコで個展
1958年 一宮商工会議所、PETITE GALERIE NY、セントラルギャラリー NYで個展、コロンビア州立美術館出品
1959年 個展失楽園 、ヒューストン美術館招待作品
1960年
~1962年
マリーワシントン大学招待作品、
アメリカン ウォーターカラー協会展招待作品、
ペンシルバニア ウォーターカラー協会展招待作品、
ネスラーギャラリー ニューヨークで個展、
レイモンド・バーギャラリー ハリウッドで個展、
ヒューストン美術館出品、
ワシントンウォーターカラー協会展出品(レンブラント特別賞受賞)
1972年 人間 その愛と孤独展 (薔薇画廊 銀座)
1973年 隣人・忘れえぬ人々展(薔薇画廊 銀座)
1975年 後藤又兵衛1950年-1975年展 (YAMAKI GALLERY 大阪)
1976年 第3回宇宙展(日動画廊 名古屋)※第10回(1983年)迄開催
1979年 連作 戦争(薔薇画廊 銀座)
1980年 後藤又兵衛 連作芸人展(薔薇画廊 銀座)
1982年 後藤又兵衛の世界展(薔薇画廊 銀座)
1984年 山木美術 大阪で個展
1990年 現代美術5人展
1994年 新作展 アポリアの狩人
1996年 後藤又兵衛ふるさと展(薔薇画廊、ギャラリーるぽ)
2001年 世紀をこえて 展
2002年 77歳にて没
美術協力

薇画廊

https://baragaro.com/